この課題を解決するには,常に濃度勾配を一定にすれば良さそうです.では,ホクナリンテープを開発した当時の北陸製薬は,この課題をどのようにして解決したのでしょうか? 解決策を見てみましょう.北陸製薬は”結晶レジポアシステム”と呼ばれる仕組みを開発しました.図にそのイメージを示します.

このシステムでは,膏体中に,溶解したツロブテロール分子と均一に分散したツロブテロール結晶が共存しています.テープ剤を皮膚に貼付すると,膏体中に溶解しているツロブテロール分子が皮膚へ移行(吸収)します.減少した膏体中のツロブテロール分子を補うために,結晶から薬物の溶解拡散が起こり,結晶が薬物貯留槽となることで膏体中の溶解した薬物濃度が一定に長時間保持されるようにしました(濃度勾配が一定,図9.).このシステムにより,長時間に渡って一定の血中濃度が維持できるホクナリンテープが完成しました.
みなさん,どのように感じますか?私は詳細な内容を知ったとき,濃度勾配を一定にすれば良いとは思いつく可能性はあると思いましたが,それを実現させた協力材料メーカーを含めた技術力は凄いと感心しました.このツロブテロールを使用した結晶レジポアシステムが実現できた要因を考えてみましょう.
皮膚のバリアー機能は強力ですから,それを乗り越える必要があります.そのために,大きな濃度勾配が必要ですし,薬物自体にも高い皮膚透過性が求められます.
最初に濃度勾配について考えてみましょう.大きな濃度勾配を得るには薬物を膏体中に極力高濃度で溶解させる必要があります.膏体は,どちらかと言えば疎水性ですから,溶解しやすい薬物の特性としては,親水性でしょうか疎水性でしょうか?
ホクナリン錠の主成分はツロブテロール塩酸塩であり,ホクナリンテープの主成分はツロブテロールであると記しました.塩酸塩とそうでない物質の違いはどこにあるでしょうか.塩(”しお”の塩ではないです.塩酸塩などの”塩”です.)を形成する意味を考えてみます.塩を形成するものは,塩酸が最も一般的です.他には,メシル酸,フマル酸,リン酸などもあります.塩を作成する目的は様々ありますが,2つの例を示します.一つは,医薬品分子を保護することです.代表的な例は,医薬品分子中のアミンを保護することです.もう一つ,これが上の問題に関係していて重要です.それは,水への溶解性の改善です.塩にすると,水に対する溶解性が高くなります.なぜでしょうか?そうです,極性が高くなるためでしたね.経口剤だと,これまでに述べたように,水に溶解させ腸管から吸収させることが必要でした.しかし,貼付剤ですと,膏体に溶解させ皮膚バリアーを透過させるために,脂溶性が高いものが必要です.ですから,経口剤のホクナリン錠の成分はツロブテロール塩酸塩であり,ホクナリンテープはツロブテロールになります.
次に,皮膚の透過性について考えます.薬物の融点とヒトの皮膚透過速度の関係についてのBakerらの報告1)によると,薬物の融点と皮膚透過速度には良好な相関が認められ,低融点の薬物ほど大きな皮膚透過速度を示します.他の気管支拡張成分と比較すると,融点が低いのはツロブテロールであり,また,脂溶性の観点からも,他の成分と比較して脂溶性の高いツロブテロールが経皮吸収の観点からも優れていると判断して選択したとのことです.
このようにして開発され汎用されている長時間作用するホクナリンテープですが,気管支喘息の”モーニングディップ2)”にも有効であると言われています.気管支喘息では,特に息苦しくなるのは夜間や早朝が多く,この時間帯に呼吸機能が低下して喘息発作が起こりやすくなる状態をモーニングディップと言われています.ホクナリンテープを就寝前使用すれば,喘息発作がおこりやすいモーニングディップの時間あたりで,ツロブテロールの血中濃度が維持できるので薬剤の高い有効性が期待できます.
参考
1) Baker R, “Controlled Release of Biologically Action Agents”, John Wiley & Sons, New York, Chap. 8(1987)
2)https://www.pharm.or.jp/words/word00343.html

