ヒトは,ご高齢の方でもフルマラソンを完走される方もいれば,壮年でも体力的に問題のある方もいらっしゃいます.個人差が大きいですね.
薬物の効果の度合いは,同様に,個人差が大きいですが,年齢による差異もあります.ここでは,小児と高齢者を考えてみましょう.
ある小児科医から,次のように言われたことがあります.
”子供は小さな大人ではない”
この言葉はたいへん印象に残っています.
”吸収と分布-2”で述べた内容を元に,血中濃度Cpと分布容積Vdの関係を考えます.
今回も単純化します.”吸収と分布-3”で述べたように,Cp=D(投与量)/Vdで考えます.
Vdは詳しく述べると色々ありますが,Vdを体の大きさとし,その指標は”体重”を使います.体重1kgあたり,Vdは1Lとします.
ある薬物が効果を発揮するには,Cp=10ug/mLが必要だとします.大人の体重が50kgならVdが50Lとなります.そうすると,薬物量はどれぐらい必要でしょうか?
式から,D=Cp × Vdですから
=10ug/mL × 50,000mL(50L)
=500,000ug
=500mg(0.5g)
ですね.
この考え方をそのまま乳幼児に当てはめると,ある乳幼児,2歳男児の平均体重が11kgぐらいなので10kgとするとVdは10Lです.この値で計算すると100mgになります(計算は省略します,単純に1/5としても良いです).
これまで述べてきた内容を否定するようで心苦しいのですが,小児科医は,この方法ではダメだと言っています.
なぜでしょうか?
様々な理由が考えられますが,一つは,乳幼児は大人に比べて,肝機能や腎機能が未発達なので,当然,ADMEに影響を与えるためです.結果として,薬物の反応も変化すると考えられますね.
小児への投与量を推定するには様々な方法が提案されていますが,【アウグスベルガーの式】が有名です.
2歳男児として,式に当てはめると,
(2 × 4 + 20)/100 × 成人量(500mg) = 140mg
となります.あくまでも推定値である点に注意してください.
小児の投与量について添付文書を確認しましょう.
小児用の剤形(薬剤の形)が揃っているアスベリンは,
となっており,乳幼児からの投与量が記載されています.
薬物量の記述は,間違いを防ぐために,薬物量(成分量)と製剤量の2つの値が載っています.2つの量が記載されている理由は,”処方せんにおける薬剤量の記載方法”を参照してください.薬剤の有効成分の含量が%表示の意味は”くすりの有効成分の量”を再確認してください.
剤形として細粒剤があるロキソニンはどうでしょうか?
小児の投与量の記載はありません.
”特定の背景を有する患者に関する注意”に
※添付文書のページをまたぐので分割しています.
との記載があります.
薬剤が私たちの手元に届くまでに,何度もの臨床試験を経て安全性の確認が行われ,その過程で投与量が設定されます.臨床試験に特別の事情がない限り小児の参加は困難でしょうから,小児に対する投与量の設定は今後の課題でしょう.
小児への投与量が記載さている薬剤は少ない,これは覚えておいてください.
次に,高齢者について考えます.
加齢に伴い,様々な機能は成人の頃に比べて低下します.しかし,低下の度合いは,冒頭で述べたように個人差が激しいです.
ここでは,加齢に伴い腎機能,肝機能が衰えたら,正常時の薬物血中濃度はどのように変化するかを検討します.
正常時の血中濃度曲線が,腎機能低下時,肝機能低下時にどのように変化(グラフの形)するかを考えてみてください.
※薬物は未変化体が活性体(有効な形),排泄は未変化体,代謝物とも”腎臓を経由した尿”とします.
考えがまとまったら,このリンクを開いてください(答えを書いておきます).
最後に
”子供は小さな大人ではない”
この言葉を忘れないようにしてください.