2種類以上の薬物を併用すると,どちらか一方の血中濃度が変化し,作用が増強したり減弱したりすることがあり,これを【薬物相互作用】といいます.
なお,相互作用は,薬物の間だけで起こるのではなく,薬物と食品の間でもおこります.
相互作用の例を以下に示します.
薬物と金属イオンが結合して,不溶体のキレートを形成し吸収が低下する例です.
なぜ,ドキシサイクリンの吸収が低下するのでしょうか?ヒントは,”不溶体”です.
もう一度,吸収と分布-1を参照しましょう.
薬物が吸収される際には,水に溶解するする必要がありましたね.
ドキシサイクリンは,テトラサイクリン系抗生物質で,構造式は以下になります.
赤で示した基本骨格をもつ薬物がテトラサイクリン系で,これらの抗生物質を使用するには,金属イオンとキレートを形成する可能性を忘れないようにしてください.
次は,たんぱく結合に関連した相互作用です.
血液の凝固を防ぐ目的で使用されるワルファリンカリウム(以下,カリウムは省きます)の分子量は346,アルブミンの分子量は約66,000です.アルブミンは,ワルファリンに比べると,とても大きいですね.
もう一度確認ですが,たんぱく結合を考えた際に,薬物は結合型と遊離型ありましたが,受容体と結合できるのはどちらだったでしょうか?【遊離型】
ここで,極端な例で考えてみます.
ワルファリン分子が100個,アルブミン分子が90個あり,ワルファリンはアルブミンと1:1で結合すると仮定します.
そうすると,遊離型のアルブミンは10個ですね.受容体と結合できる,つまり,薬理効果を発現できる分子は10個です.
ここでアスピリン分子を30個飲みました.アスピリンとアルブミンの結合率100%と仮定します.アスピリンは,ワルファリンよりアルブミンとの親和性(結合のしやすさ)がより強い薬物です.
そうすると,アスピリンは,アルブミンと結合しているワルファリン90個のうち30個を追い出します(遊離させる).となると,遊離型のワルファリンの数は40個に増えます.いす取りゲームのようですね.
表にまとめると以下になります.
ワルファリン単独 | アスピリン30個併用 | |
遊離型の数 | 10 | 40 |
結合型の数 | 90 | 60 |
遊離型のワルファリンの数に注目してください.受容体に結合できる遊離型のワルファリンの数は増えます.その結果,ワルファリンの作用は増強されます.
これが,ワルファリンとアスピリンを併用すると,ワルファリンの効果が増強されるメカニズムです.
次は,代謝系が関わる相互作用の例です.
ジヒドロピリジン系の血圧降下薬とグレープフルーツジュースの相互作用は,マスコミで報道され多く方が知っているようです.
クレープフルーツに含まれているフラノクマリン類が,代謝酵素のCYP3A4が働かないようにする(阻害)するため,ジヒドロピリジン系のニフェジピンの代謝が行われなくなります.
ニフェジピンの代謝が行われないと血中濃度はどうなりますか?
そうです,血中濃度はなかなか減少しくなり,これはニフェジピンの作用が増強されることを意味します.
ニフェジピン単独とグレープフルーツを併用した場合を考えると,併用時のAUCは,単独使用時と比べ【増大】します.
※ところでAUCはなんでしたか?
同内容の記事を,公益財団法人日本心臓財団のサイトから引用します.
薬と食品の相互作用①~カルシウム拮抗薬とグレープフルーツ~
グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類という物質が、小腸上皮細胞にあるCYP3A4という代謝酵素を阻害することで、カルシウム拮抗薬の代謝が妨げられ、体内でのお薬の濃度が上がり、お薬の効果が強くなってしまうことが原因です。
相互作用の原因となるフラノクマリン類は、グレープフルーツの外側の皮と果肉の間の白い部分(アルベト)や果肉の部分にも含まれていると言われています。また、グレープフルーツだけではなく、スイーティー、ざぼん(ぶんたん、ばんぺいゆなど)、だいだいなどにもフラノクマリン類が含まれており、グレープフルーツと同様の相互作用が起こる可能性があります。
ニフェジピンとグレープフルーツジュースが相互作用を起こすと覚えるのは重要ですが,サイトに記載されたように,
”フラノクマリン類は,グレープフルーツだけではなく他の果実にも含まれており,グレープフルーツと同様の相互作用が起こる可能性がある”
と覚えると,応用できる範囲が広がります.
患者さんから質問された際には,添付文書に記載の”注意深く観察”と必要以上に不安感を抱かせないように,を念頭に置いて接することが重要だと思います.
相互作用は,他にも様々な種類があるので注意してください.たとえば,代謝酵素が増強され,AUCやCmaxが低下する組み合わせもあります.
最後に,ニフェジピンとグレープフルーツを併用した例をシミュレートした血中濃度グラフを見ましょう.
AUCは,体内に吸収された薬物量の指標でしたね.グレープフルーツ併用時のニフェジピンのAUCは【増大】します.ですから,ニフェジピンの作用は増強されます.
※AUCは【面積】でしたね.
もしニフェジピンの代謝酵素であるCYP3A4が強くなったらどうなるかをグラフに示しました.ある条件で代謝酵素が誘導されるという言い方が一般的ですが,とにかく,酵素の数が増えた,でも,力が強くなったでも良いのですが,酵素の処理能力が上がる場合があります.
この例では,ニフェジピンの未変化体の濃度は代謝により減少しますから,効果も減少しますね.
※面積は減少しています.