01.06 一般名とステム

くすりの基礎

次に,もう一つ,一般名を意識すると”良いことがある”の例を示します.この内容は,一般名 → 薬理作用の連想に関連します.少々ややこしいですが,是非読んでください.

医薬品の一般名にはステムという概念があり,ステムを理解するとその薬物の基本的な薬理作用が一目で理解できます.

ステムの解説を,日本薬学会会誌のファルマシアに掲載された,高橋秀依氏の”ステムは医薬品のあいうえお!”から引用します.(文章の強調は筆者が行いました)

ある委員会で,薬学関係の出席者の多くが「ステム」を知らないことに気付き,ちょっとしたショックを受けた.「大学で教えていない」「医療現場では使っていない」と言われ,それで良いのだろうかと思った.

これまでは,患者や医師にとって,また多くの薬剤師にとっても,販売名が最も馴染みやすい名前だったろうと思う.しかし,2012 年に厚生労働省が調剤報酬を改訂し,医薬品を一般名で処方した場合に調剤報酬が加算されるようになった.その結果,一般名を用いる後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用が増え,一般名が普及しつつある.薬剤師の中にはこういった流れに戸惑いもあるようだが,一般名には「ステム」という大変優れた特徴があることを理解し,一般名の使用が標準であるという意識を持っていただきたいと思う.

一般名,より正確には日本医薬品一般名称(japanese accepted name:JAN)は,国際一般名(international nonproprietary name:INN)に基づき厚生労働省によって決められる.

JAN のもとになる国際一般名であるINN はどのようにして名前をつけられるのだろう.INN は,世界保健機関(WHO)によって,原則としてステムを用いて名前がつけられる.2) ステムは,医薬品を分類するために用いられるもので,医薬品の化学構造や標的分子および作用メカニズムなどに基づいて定義される.ステムは,英語ではcommon stem と言われ,「stem:幹,軸,茎」に由来しており,文字通り一般名の根幹となるものである.日本語では共通語幹とも言われる.共通のステムを持つ医薬品には何らかの共通項があり,ステムを手がかりとして,その医薬品の薬理作用や構造を含むだいたいの姿をイメージすることができる.

ジェネリック医薬品の普及とともに,今後も一般名の使用が増えていくことが予想される.一般名のステムを基にして医薬品を理解したうえで,販売名を覚えることをお勧めする.そうすれば,知識が体系化され,自分の言葉で医薬品を語ることができるようになるだろう.一般名の中に含まれるステムを見つけ出すことは,ちょっとしたパズルのようで面白い.ステムが分かったその瞬間,頭の中に標的分子や作用機序,および化学構造までが,ぱーっと浮かんでくる.この快感を多くの皆様に味わっていただきたい.医療の現場や大学教育にステムを活用していただければ幸せに思う.

引用元:高橋秀依氏の”ステムは医薬品のあいうえお!

これでステムの有効性はご理解いただけたと思いますが,まとめると,共通の構造や薬理作用をもつ薬物の一般名は,接頭語や接尾語に”共通の文字列”を加えるということです.

先に引用したノルバスクの”有効成分に関する理化学的知見”に掲載されている構造式を書き換えると以下になります.

次に,塩を除いたジヒドロピリジン系薬物5種類の一般名をステムを意識して表記するとは以下の様になります.

日本語表記英語表記
アムロ・ジピンAmlo-dipine
ニフェ・ジピンNife-dipine
ベニ・ジピンBeni-dipine
アゼルニ・ジピンAzelni-dipine
シルニ・ジピンCilni-dipine

当然ですが,構造も似ています.アムロジピンと下に示す構造を見比べてみてください.赤色で示した共通の構造(本サイトでは,基本骨格と表現します)がすべての薬物に見て取れます.

この内容を思い切り単純化すると,”良く似た構造を持つ薬物は,作用も同じ場合が多い”です.

車輪が4個付いている軽自動車は道を走るものと知っていれば,初めて大型トラック(車輪の数は異なるでしょうが)を見たら,なんとなく同じ役割の”道を走るもの”と想像できますよね.車と海に浮かぶ船を見て,役割が同じとは思わないでしょう.

ですから,新たに発売された医薬品の有効成分の一般名が,たとえば”カンゴジピン”であれば,

あーーーー,ジヒドロピリン系のカルシウム拮抗薬ね!血圧を下げる薬じゃん!”とすぐに理解でき,薬理作用などを含め覚える労力を減らすことができます.

他のステムには,抗生物質の章で触れるセフェム系の”(接頭語の)セフ-”などがあります.興味を持たれた方はリンク先からpdfファイルを入手して読んでみてください.

繰り返しになりますが,販売名とともに一般名も意識してください.きっと将来良いことが待っています.