液状のくすりの濃度表示を見てみましょう.ここでは,消毒液のオスバンを例にします.
”オスバン消毒液”には有効成分の濃度が異なる3種類の製品が存在します.各々の添付文書の濃度が表示されている部分を引用します.
引用元:オスバン消毒液10%,添付文書より,富士製薬工業株式会社,2022年10月改訂 (第9版)
引用元:オスバン消毒液0.1%,添付文書より,富士製薬工業株式会社,2022年10月改訂 (第8版)
引用元:オスバン消毒液0.05%,添付文書より,富士製薬工業株式会社,2022年10月改訂 (第8版)
オスバン消毒液10%の添付文書を見ると,上の方に,”10w/v%”と表示されています.この場合,100mL中に有効成分のベンザルコニウム塩化物は何g含まれていますか?
そうです,【10g】ですね.不安な方は”くすりの有効成分の量”をもう一度見てください.
もう一度,添付文書を見ると赤字で
本剤は必ず希釈して,濃度に注意して使用すること.
と書かれています.使い方を見てみましょう.
引用元:オスバン消毒液10%,添付文書より,富士製薬工業株式会社,2022年10月改訂 (第9版)
”重要な基本的注意”の項目にも”本剤は必ず希釈し,濃度に注意して使用すること.”となっています.
次に,オスバン消毒液0.1%の添付文書を見ると,
引用元:オスバン消毒液0.1%,添付文書より,富士製薬工業株式会社,2022年10月改訂 (第8版)
となっており,手指などの消毒には,0.05-0.1%を使うようです.
該当する濃度の商品がありますから,それを使えば良いのでしょうが,該当する濃度の商品が手元になく,一番濃度の濃い10%溶液しかない場合はどうすれば良いでしょうか?
つまり,10%溶液から,0.05%の溶液,0.1%溶液を1L作る方法です.
計算方法は色々ありますが,一つの方法として,作成しようとする0.05%1L中に含まれるベンザルコニウム塩化物の量(ここでは重さ)を基に考えてみましょう.
0.05%のベンザルコニウム塩化物は100mlに何g含まれていますか?【0.05g】ですね.
1Lの0.05%溶液を作るには,100mLの10倍ですから,【0.5g】になります.
10%溶液を使いますから,ベンザルコニウム塩化物は
100mL中に10g
含まれています.これをふまえて,ベンザルコニウム塩化物0.5gを含む10w/v%液の体積(容量)は何mLでしょうか?
ここで,比を考えます.必要となる液体の量をx mLとすると
10g:100mL=0.5g:x mL
と書けます.ここで大事な点は,右辺と左辺は同じ割合の物であることです!
xを求めると,
x ml = 0.5g × 100ml / 10g
= 5mL
5mLを取って,そこに水を加え全量を1Lにすると完成です.
実際には,器具が揃っていれば,
引用元:メスシリンダー
計りたい容量に合致する上の写真のメスシリンダーを用いて5mlを取り,それを1Lの同じくメスシリンダーに入れて,水を加えて1Lにします.
※より正確にするなら,10%オスバン液をホールピペットで計り,1Lのメスシリンダーに入れて全量を1Lにします.
引用元:ホールピペット
引用元:メスフラスコ
器具の選択や手法は,どこまでの正確さを求められるかにより異なりことを必ず覚えておいてください.
同じように0.1%を作ることを考えましょう.
0.1%のベンザルコニウム塩化物は100mlに何g含まれていますか?【0.1g】ですね.
1Lの0.1%溶液を作るには,100mLの10倍ですから,【1g】になります.
10%溶液を使いますから,ベンザルコニウム塩化物は
100mL中に10g
含まれています.これをふまえて,ベンザルコニウム塩化物0.5gを含む10w/v%液の体積(容量)は何mLでしょうか?
ここで,比を考えます.必要となる液体の量をx mLとすると
10g:100mL=1g:x mL
と書けます.xを求めると,
x ml = 1g × 100ml / 10g
= 10mL
10mLを取って,そこに水を加え全量を1Lにすると完成です.
災害時など,正確に5mLを計ることが出来ない場合,どうしたらよいでしょうか?
引用元:被災した家屋での感染症対策
オスバンのキャップ一杯が約5mLなので,キャップ一杯を取り水1Lに加えれば良いことになります.元になる消毒液の濃度は10w/v%である点に注意してください.
水は,ペットボトル1本が約500mLなので,1L は2本分になりますね.
※”比”を考えた,関連した内容で,講義で質問したところ学生さんが間違えた例を解説します.
なじみのない単語が出てきますが,”吸収と分布-3”で説明してあります.
比を考えた際に,大事と書いた事を覚えていますか?【右辺と左辺は同じ割合のもの】でしたね.
講義で出した問題
1.薬物Aの血中濃度は分布容積(Vd)にのみ依存するとする. Vd=50Lの場合,ある時点の血中濃度(Cp)が100mg/mLであるとする.薬物Aを同じ量を投与し,Vd=100Lの場合は,同じ時点での薬物AのCpの値はどうなるか?
多くの解答例が,
50L:100mg/mL = 100L:x mg/mL
50L x = 100L × 100mg/mL
x = 200mg/ml
です.
CpはVdにのみ依存しますから,投与量が同じなら,たとえば,1g投与して,Vdは容積ですから,500mLと1,000mLとしましょう.
この場合,濃度は,どちらが薄くなりますか?
当然,1,000mLの方が薄くなります.ところが,上の解答例では,Vdが増えたのにCpも濃く(数値が大きく)なっています.なんだかおかしいですよね.
落ち着いて考えてみると,両者同じ物はなんでしょうか?【投与量】ですね.
ですから,投与量(薬物の量)を基準に式を立てるなら,
100mg/mL × 50L(薬物の量を計算) = x mg × 100L
※単位をそろえるなら50,000mLとするが,両辺とも容量はL表示なので編集上省略.
x = 100 × 50 / 100
= 50mg/mL
となりますね.
比を取るなら,”おなじ割合のもの”で比を取りますから,
100mg/mL:x mL/mg = 50L:100L
となります.